ココロの架け橋 中野敏治
試験を終えた頃、彼から担任に電話が入りました。
「試験終えた。できなかった。今から帰る。朝、ありがとう」とだけ伝えて電話を切りました。
合格発表の日、彼らは受験校へ合格発表を見に行きました。
受験を渋っていても、合格発表は当然気になるものです。
受験生は全員、合格発表を見て、その結果を学校に電話してくることになっています。
「先生、合格した!」
「やったー。おめでとう」
「この学校を受けた人、みんな受かったよ」
「本当か、やったな。みんなで学校に戻ってこいよ」
「うん、わかった」
でも、残念なことに不合格だった生徒もいます。
「先生、だめだった。今から帰るね」
「そうか、そうだったか・・」と担任の残念そうな言葉。
こんな電話のやり取りが職員室のあちこちで聞こえてきます。
気になる彼からの電話がなかなか入ってきません。
職員室の電話が鳴りやみ、1時間以上過ぎた頃です。
職員室の電話が鳴りました。
担任はすぐに受話器を取りました。
彼からの電話でした。
担任はあわてた口調で「どうだったの?」と彼に話しかけました。
彼は小さな声で「受かった」
その言葉を聞いた担任は職員室で大きな声を上げました。
「本当? やったね。いい、絶対に3年間学校をやめちゃだめだよ。いい、もし何かあったら、私の所に来なさい。絶対にやめるんじゃないよ」
担任の目には涙がありました。
その日の夜、職員室の玄関に1人の生徒が立っていました。
あの生徒でした。
彼は担任に「ありがとう」を言いに来ていたのです。