人は死ぬから幸福になれる 島田裕巳
日本ではがん告知がまだ行われていない時代、ほかの国では積極的にがん告知が行われていました。
そして、実際のそれを経験した人がいます。
その人が岸本英夫です。
岸本は昭和29年にアメリカのスタンフォード大学に客員教授として赴いたときに、がんが発見され、がん告知を受けることになるのです。
その時岸本は51歳で、皮膚のがんの一種である黒色腫でした。
がんの塊は左頸部にあり、それを切開して、がんが広がっている可能性のあるリンパ節や筋肉が取り除かれました。
幸い、取り除かれたところからはがん細胞は発見されませんでした。
その後岸本は日本に帰国することになりますが、帰り際に、スタンフォード大学の哲学科のスタッフに求められて「東洋における死の概念」と題した講演を行っています。
その講演では、「日本人は、肉体的苦痛の中で死ぬかどうかよりも、平和で幸福な心の状態で死ぬかどうかに関心を持つ。だから日本文化では、死は単に生命の自然な終わりではなく、人生の最期の重要な達成なのである。その意味では、死は生の領域内にある」と述べられています。