ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛
退院後も2カ月に1度、検査が待っている。
不安を感じさせるのは、初回同様、脳のMRI検査だ。
私にとってリスクが高いのは、肺ガンそのものよりも、脳の腫瘍であることが分かっている。
脳幹にある腫瘍 がまた大きくなってしまったら、首から下の腫瘍がいくら制御できていても、たちまち寝たきりになってしまうかもしれない。
寝たきりになるだけならまだいいが、認知機能の低下や性格変化が起こってしまったら、もはや自分ではどうにもできず、周囲に看病とは別の強烈な負担を強いてしまう可能性が高く、そうなれば私が思う「楽しい最期」とはかけはなれた状況が待っている。
死刑囚は刑が確定してもすぐに執行されることはないが、2年、3年と時間が経過してくると、いつお迎えが来るか分からない日々を過ごさなくてはならない。
毎朝、決まった時間に異常な緊張が拘置所内を支配する。
そのストレスは相当なもので、なかには精神に変調をきたす者も少なくないといわれる。
立場は違うが、私もその死刑囚の心理が分かるような気がした。
私は自分がガンになって、検査結果を待つ身になった時、初めて患者さんの苦悩と絶望の一端を知った。
日々の仕事や予定をこなすなかで、少しの希望と絶望の間を行き来する徒労感は筆舌に尽くしがたい。