余命宣告

人は死ぬから幸福になれる 島田裕巳

現代は、なかなか人が死ねない時代です。
昔だと、死は私たちが生きている世界のすぐ近くにあって、いつそれが自分にも襲ってくるか、それが分からないという状態にありました。
しかし、今や死は私たちの生活からはるかに遠ざかってしまっているかのように見えます。
死に対する恐れについても、死が身近にない分、かなり抽象的なものになっています。

そんな現代の社会においても、いきなり死がごく近い所に迫ってくることがあります。
たとえば、病院で末期がんを宣告され、「もう手遅れだ」と言われれば、死の近いことを覚悟しなければなりません。
医師は、せいぜい生きられるのはこれくらいだと余命宣告さえ突き付けてきます。
そんな時には、死が一挙に現実のものとなり、強い恐怖感に襲われることになるでしょう。

戦前から戦後にかけては、結核であるという診断が、末期がんの宣告と同じ性格を持っていました。
結核は、ストレプトマイシンなどが開発されるまでは不治の病であり、多くの人がなくなりました。