人生は60歳から

寿命が尽きる2年前 日下部羊

死が迫ったとき、泰然とそれを受け入れるには、十分生きたという実感を持てればいいのではないでしょうか。
命を延ばすことに汲々とするのではなく、満足の得られる何かを積み重ねることです。

少年時代から敬愛していた漫画家水木しげるさんは、戦争中、ニューギニア戦線のラバウルに派遣され、最前線で99死に一生を得るような体験をした後、現地人の村に出入りして仲良くなり、戦後も度々パプアニューギニアを訪れています。

水木さんの漫画には、冴えてる一言としか言いようのない至言が溢れています。
60歳をはるかに超えた水木さんが、「良き老後とはなんなのか」とため息をつくねずみ男に、次のように語りかけます。
「人生の夕日、これがまた意外にいいもんなんだよ。若いときは、成功しようとか、なんとか欲があるが、すべてが過ぎ去って歳をとり、自分が決まって欲がなくなるというのか、今まで気づかなかったいろいろなものが見えてくるんだよ。若いときのように、くだらない邪心が消えているというのか、まさに人生は60からだよ」

成功したいとか、偉くなりたいとかいうのは、若気の至りのくだらぬ邪心で、それに捉われているうちは大事なものが見えない。
いつまでも元気で長生きを求める欲望も、きっと同じです。
それに捉われたままでいると寿命が尽きる2年前に至っても、人生の最後を有意義に過ごせない危険性があるということです。