人は死ぬから幸福になれる 島田裕巳
時代は大きく変わりましたが、現代の私たちも生老病死の苦から解き放たれているわけではありません。
死を恐れていますし、それに結び付く病や老いを恐れています。
古代のインドの人たちが殺生というものを避けようとしたのは、輪廻があるからです。
来世にどういった存在に生まれ変わるかはっきりとわからない以上、周囲にいる生き物を殺すことは、自分にとって近しいものを殺すことになりかねないからです。
仏教も古代インドにおける宗教の目的は、死んだら二度と輪廻しないということにありました。
解脱という言葉がありますが、それは単に悟りを開くということではなく、死んだらそのままで、もう生まれ変わりを繰り返さないということを意味しました。
もう生まれ変わらないためには、現世における欲望をすべて捨て去らなければならない、そのように考えられたのです。