乳房温存療法

近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠

僕が言っていることの根拠は、基本的にデータと論理です。
データには、まず医学に関する膨大な論文や報告が含まれます。
世界各国で行われてきた比較試験や臨床試験、各種報告など、さまざまな文献は公開されていて、僕は若いころからこれらをたくさん読んできました。
さらにデータには、自分が見聞きしたことも含まれます。
昨日まで元気だった患者さんが、手術したらすぐ死んでしまった、というような体験もデータになるわけです。

僕が、「がんは放置がいい」と主張するきっかけとなったのは、治療によってボロボロになり、結局は亡くなっていく多くの患者さんを診たことでした。
僕が医者になったばかりのころは、がんと言えば手術が当たり前。
放射線科の医者である僕のところには、無理な手術で体の機能を失ったあげく、手の施しようがなくなった患者さんが、大勢回されてきました。
患者さんは痛みにうめき、立つ気力さえありません。
それなのに病院は、まだ検査や治療を続けろというのです。

いったい誰のための治療なのか?と、やり場のない怒りが渦巻いていました。
ちょうどそのころ、留学の話があり、僕はアメリカに渡りました。
そして、そこで目からうろこが落ちたのです。
日本では当時、乳がんになると、乳房だけでなく胸の筋肉までごっそりとる手術が主流でした。
ところがアメリカでは、がんのあるところだけ小さくくりぬく、乳房温存療法が始まっていました、
しかも、治療成績も変わらなかったのです。
帰国した僕は、何とかこの療法を広めようと一生懸命論文を書きました。