ココロの架け橋 中野敏治
1人の生徒が少し興奮し、「先生がうちに来ると、家が大変なんだ。親父とお袋がもめるんだ。もう、来ないでくれ!」と怒鳴ってきたこともありました。
「お前がいろいろなことをするからだろう。親は我が子のことが心配で学校のことを知りたいものだぞ」と彼に言葉を返していましたが、そんな私の言葉で納得することはありませんでした。
家庭訪問を続けていたある日、「先生、どうせ家に来るなら、勉強教えてや。俺、全然勉強してこなかったから何もできないからさ」と、思いもかけない言葉が彼の口から出たのです。
中学3年生の進路の時期でもあり、勉強が気になりはじめ、あせりもあるのだと感じました。
毎週決まった曜日に彼と勉強をする家庭訪問が始まりました。
そんな懐かしい話しを思い出しながら彼らと話していると、彼らは私が忘れていることをたくさん覚えていました。
「先生、学級の係りを決めるとき、俺いなかったよな」「二学期の俺の掃除場所、先生覚えている?」「黒板の落書、俺みんな覚えているよ」と、次から次へと話し続けるのです。
「どうして、そんなことまで覚えているんだ?」と彼らに尋ねると、彼らは「俺たちは、中学校を卒業して就職しただろう。だから俺たちにとっての学校は、中学校が最後なんだ。みんなは高校とかの思い出もできるかもしれないけれど、俺たちの学校の最後の思い出は中学校なんだ」というのです。
衝撃的な言葉でした。
今まで考えていなかった卒業生の心の言葉を聞いた感じがしました。