不良グループに逃げ込んだが

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

仕方なく僕は、学校から帰る道々、ウソの「楽しかった話し」を考えました。
誰とも喋っていない1日を終えて、楽しい学校ストーリーをつくり出せというのは、むごい話しです。
母を騙し続けるのがつらくなって、橋の上歩きながら、ここから飛び降りてしまう方が楽だと思ったこともあります。
その寂しかった僕は、やさしくしてくれる不良の先輩に近づくというお定まりの道へ踏みだしてしまったのです。
彼らのパシリになってタバコを吸い、自転車を盗み、果ては万引きまでしました。
学校にバレて、何回か呼び出しがあった後、母の怒りが爆発しました。

「文昭、私ら、何のための親子や。産んで育てたんは私や。お前が何をしても、全部私の責任や。だから母さんには、どうしてこんなことをしたか話してちょうだい」
僕は学校で、誰でもいいからしゃべってくれる人が欲しかったのです。
だけれど、そう打ち明けたらクラス全員に無視されていることも話さなくてはなりません。
のらりくらりウソを重ねる僕は、ようやく母から解放され、寝床に入りました。
それでも、うしろめたさや悲しさがごちゃまぜになって、よく眠れていなかったのでしょう。
ふと気配を感じました。
母でした。
母が寝ている僕の枕元に、包丁を持って立っていたのです。