モルヒネ

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

北村さん(59歳 男性 大腸がん 余命3か月)は、退院して元気に過ごしてきました。

ただ、自分でもわかっているけれど、だんだん体力は落ちてきている。
だけど痛みの対する恐怖心がないから、静かに安らかに終末を迎えられる。
毎日幸せですよ。
朝は子供たちや家内が「仕事に行ってきます」、帰ってきたら「ただいま」「おかえり」って。
毎日、家族のね、足音、声が聞こえてね、毎日大好きな家内の顔が見られて幸せです。
本当に幸せ。
僕はとっくに死んでいて当たり前の身体なんですよ。
それも病院でね、天井だけを見て、死んでいた。
そういう病院に比べたら、毎日家族のいるところで美味しいご飯を食べさせてもらって、子供たちや家内の顔を見て過ごせる。
こんな幸せなことはない。
家にいても、看護師さんに痛みを取ってもらえているし、いろいろなことをしていただいているし、本当に安らいで、安心して家で療養できている。
本当に幸せです。

北村さんのお話、いかがだったでしょう。
北村さんは、がん性疼痛が強かったので、入院中に使っていた3倍の医療用麻薬を使って、ようやく痛みが取れました。
旅立たれる直前にはさらに増え、内服のモルヒネに換算して3000㎎ほどの医療用麻薬を使いました。
通常のがん性疼痛にはモルヒネ30㎎前後でも効きますが、強い痛みには300㎎、さらに頑固な痛みは、人によっては3000㎎必要な場合があります。

医療用麻薬は、使い方が難しいというイメージや麻薬への偏見から、医師も患者も積極的に使えていないのが現状です。
モルヒネとは、量を増やすことで痛みを緩和できる不思議な薬です。
医療用麻薬は、痛みの治療をしている限り、中毒にならず安心です。
さらにモルヒネには、エンドルフィンという嬉しいときや幸せを感じたときに出る物質の化学構造式に一番似ています。
つまり、モルヒネを摂取すれば、エンドルフィンが出ている時と似た状態になって、痛みや苦しみ、呼吸苦を取り除くだけでなく、朗らかになれるのです。