クローンも厳密には同じものではない

いのちを愛ずる 中村桂子

細胞たちはお互いに情報を出し合って、そろそろ増えた方がいいよとか、そろそろやめようねとか、そういう話し合いを体の中でたくさんしているのです。
そういうお互いの情報が伝わらない、がん細胞はどんどん増えていきます。
ですから、がん細胞自身は死ぬことがないように思えるかもしれません。
でも、あまり元気に増えると、私たちの体全体の調和が壊れて結局は死に至ります。

もう1つ、死を避けるために、この頃よく言われるのがクローンです。
これは、たとえば私の細胞のDNAを卵の中に入れて、それをもう一度、誰かのお腹の中に戻して赤ちゃんを育てるのです。
すると、私と同じDNAを持った赤ちゃんが生まれてくるわけです。
でも、クローンも厳密には同じものではないということが、生物学ではっきりとわかってきました。
不思議なことですが、哺乳類は1回、精子が卵を通らないと、全部の遺伝子がきちんと働かないということが分かったのです。
これは、どこかで自然が歯止めをかけたのかなと思います。

やはり私たちは、生きること死ぬことを真正面から見つめて、その意味を考えながら生きていく。
これが自然の中での生き物としての生き方かなと思っています。