いい言葉がいい人生をつくる 斎藤茂太
先日、ある会合で声をかけられた。
俳優のRさんだ。
以前はテレビにも毎日のように登場し、スター街道まっしぐらの活躍ぶりだった。
そういえば、最近はあまり見かけない。
人気絶頂に会ったとき、彼はマネージャーのいうままに猛烈にスケジュールを消化していた。
仕事漬けになる代わり、住まいは家賃100万円のマンション、着るものはブランドづくめ、故郷の親を東京に呼んで、成功ぶりを見てもらおうと思ったところ、両親は、あまりに日常感覚を欠いた彼の生活ぶりに、かえって心配を深めたほどだった。
そんな彼が、今は下町のしもた屋住まいだという。
毎日コンビニやスーパーに行って、自炊をしているという。
あれほどの人気スターも人気が陰ったのか、私はそう思いかけた。
だが、そうではなかった。
人気沸騰しているころも、彼は昔のアングラ劇団時代の仲間と交流を絶やさなかった。
ある日、劇団仲間と観に行った1人芝居が彼の人生を変えてしまったのである。
何のために俳優をやっているのだろう。
人気? 豪華な生活? お金? 何度問い直しても、答えはこうだった。
血がたぎるような舞台をしたい!これだ。
彼は、周囲の説得に耳を貸さず、芸能プロダクションをやめた。
今は小さな劇団に籍を置き、もう一度芝居の勉強を一からやり直しているところだという。
夢があれば貧乏はつらくないということが分かりました。
昔より今の方がずっと楽しんです、という彼をしっかり支えているのは、いつか一人芝居をやるという夢だ。