やぶ医者になれ

生きることの楽しさ なだいなだ

人生では、出世した人が成功者のように言われることが多いですね。
そういう意味では、私は大したことをやってきたわけではありません。
ノーベル賞をもらったわけではないし、勲章をもらったわけでもない、オリンピックで優勝したというような名誉もない。
でも振り返ってみると楽しかったと思います。

実は私は学生時代、医学の勉強をあまりやらず、小説ばかり読んでいたものですから、医者になっても患者さんに迷惑なのではないか、と考えたことがありました。
それに、私は人に輪をかけたおっちょこちょいなんです。
ちょうどそのころに、右足を切るつもりで左足を切っちゃったという外科医が新聞で報道されていたのですが、「俺が外科医になったら同じようなことをやるかもしれない」と思いました。
それで医者をやめようと思っていると、山口先生という方に「やぶ医者になれ」と言われたのです。
「やぶ医者なんて、世の中に害毒を流すんじゃないですか」と言ったら、「そんなことはない。やぶ医者はやぶ医者が診るべき患者を診ていればよろしい」と言うのです。
「大学で教わったことは、名医になるためのものだから、みんな忘れてよろしい」と。