なんとめでたいご臨終 小笠原文雄
「小笠原君、わしはやぶ医者になってしまった」
医師になって3年目のある日、病院の上司が突然こんなことを言いました。
「えっ? 先生は名医って評判ですよ」
「それがなあ、肝臓がんの患者が死にそうだったから、お別れをさせようと家族を呼んだんだ。すると家族が患者を家に連れて帰ってしまってな。驚いたよ」
「それは大変でしたね」
「それから7年経った今日、その患者がいて、外来に来たんだ」
「本当ですか?」
「小笠原君、退院させるとやぶ医者になる。だから気をつけろ」
もうお分かりですね。
私は在宅看取りを50人以上経験し、やっとその謎が解けました。
最期までここにいたいと願う処で過ごすことが、命の奇跡を生み出すこと、在宅ホスピス緩和ケアなら、朗らかに生き、3割の人に延命効果があることがわかったのです。
延命治療などで、強制的に生かされた命ではなく、希望と喜びの中で生かされている命だからこそ、旅立つ時を選ぶ。
そんな不思議な力があるのです。
最期までここで暮らしたいという願いが叶い、自然の摂理の中で”希望死” ”満足死” ”納得死”ができたとき、ご遺族は離別の悲しみで涙を浮かべながらも、笑顔でお別れをします。
笑顔で別れる、笑顔で看取れるとしたら、なんとめでたいご臨終でしょう。
人には必ず死が訪れます。
どうせ死ぬなら笑って死にたい。
遺された人の役に立ちたい。
そんな死ねる喜びを感じられたら、幸せの極みだと思います。