たった一度の人生だからこそ

70歳からの選択 和田秀樹

たった一度の人生ですから、もっと知らない世界を覗いてみたかったという思いを持たれる方も少なくありません。
高齢者は金銭面や健康面の不安から、新しい経験を躊躇することが多いと思います。
ただし、自分の知らない世界を経験するということは、とくに高齢者においては前頭葉(おもに思考や判断をし行動する機能をつかさどる脳)の衰退を防ぎ、気力や意欲を上げる効果があるのです。
50代以降は前頭葉の委縮が進むことで意欲が減退していく傾向にあります。
高齢になるにしたがって、さまざまなことが面倒になり、新しいことにチャレンジすることが億劫になっていきますが、前頭葉の委縮がその一因となっているのです。
前頭葉の衰退を防ぐためには、生活のマンネリ化の打破、つまり新しいことを経験することが重要となってきます。

高齢になるにつれて、男性は男性ホルモンが減少することにより次第に周囲に対する関心や意欲が減退していく一方、女性は歳をとると男性ホルモンが増えるため活動的で意欲的になる傾向があります。

会社人生で家庭を顧みなかったり、奥さん孝行をしてこなかったりした男性の場合、活動的になった妻から「私はこれまであなたと子供のために尽くしてきました。これからは、好きなように生きます」と三行半を突き付けられ、熟年離婚といったことも少なくありません。
そうなると、男性の方はますます「俺の人生は何だったのか」となっていきます。
家族のために必死に働いた会社人生が終わったと思ったら、妻から離縁されて孤独になり、さらにうつ状態になってしまう・・・そういうケースも多いのです。

時間もあり、子育てや住宅ローンなどのしがらみから解き放たれた高齢者こそ、好きなことをして生活するべきなのです。
医療やお金の常識などに縛られて、ストレスの多い生活を続けることの方が、長寿や健康にとってはマイナスです。