ただ傍にいるだけで

今日が人生最後の日だと思って生きなさい 小澤竹俊

酒もたばこもやらずに真面目に働き、マイホームを購入した矢先にガンが見つかり、「どうして私が病気にならなければならなんですか!」と叫んだ患者さんもいました。
1人でトイレに行けなくなった患者さんに「これ以上生きていても辛いだけなので、早く死なせてください」とお願いされたこともあります。

こうした患者さんの心の叫びに、医者も医学も満足にお応えすることはできません。
苦しむ患者さんに対し、何もできない自分に私自身苦しみながら、ただ傍にいるしかないのです。

しかしある日、私は気がつきました。
「たとえ役に立てなくても、その場から逃げず、共に苦しみを味わうことで、患者さんのお手伝いができるのではないか」と。

そんな私の前で、多くの患者さんたちが、奇跡とも言いたくなるような変化を見せてくれました。
「早く死なせてほしい」と言っていた患者さんが、ホスピスで日々を過ごすうち、「動けなくなった自分でも、生きていて良いのだ」と考えるようになったり、健康な時には、何よりも仕事を優先していたお父さんが、家族の大切さ、ありがたさに気づいたり。
「今まで生きてきて、華々しいことは何もなかった」と言っていた患者さんが、死を前に「自分がやってきたことが、家族や会社、社会の役に立っていた」と気づき、自分の人生を肯定できるようになったというケースも、数多くあります。