たかじんさんの場合

近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠

再手術を受けたせいもあって、たかじんさんの体は大きなダメージを受けていました。
そのため医者は、9月まで退院は無理だと言ったそうです。
しかし、たかじんさんは、5か月も6か月も入院なんかしていられないと、吐きながらも高カロリーの固形食を食べて、体力をつけたそうです。
たかじんさんのような手術をすると、どうしても胃の中のものが逆流しやすくなり、吐いてしまうことが多いのですが、無理やり食べたのです。
そして、たかじんさんは、医者の予定より3か月早く6月に退院します。
ところが、9月には手術後に受けた抗がん剤治療の副作用で腸閉塞を起こし、緊急入院。
今回は2週間の入院と言われたのを、1泊2日で退院し、再び体重回復に励みます。
友人たちとカラオケを歌い、ワインを飲み、ゴルフをし、70キロから50キロ台にまで落ちてしまった体重を60キロ台にまで戻したとか。

無茶な話ですが、「たかじんさんならば、こうだろう」と思わせるエピソードではあります。
ただその一方で、これほどの気力あふれた人だからこそ、たかじんさんはがんと闘ってしまったのかもしれない、とも思います。
医者はたかじんさんに「手術をすれば大丈夫」とか、「がんを克服しましょう」なんて言ったに違いありません。
そんなふうに言って、たかじんさんのような気力ある人を、手術や抗がん剤治療に誘導するのは、たやすいことなのです。
患者さんの「治りたい!」「がんに負けたくない!」という気持ちを利用して、医者は自分のやりたい治療をするのです。