近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠
がんもどきは放っておいても転移しないとしても、放っておくと本物のがんになることはないの?
正常遺伝子が傷ついてがんになるなら、がんもどきの遺伝子が傷ついてがんになることもあるのでは?
がんもどきは、既に遺伝子が傷ついて凶悪な顔つきになっているのだから、正常細胞よりも、簡単に本物のがんになるのではないの?
といった疑問もあると思います。
確かにその可能性はゼロではありません。
がんもどきも細胞である以上、遺伝子の傷が積み重なって、本物のがんになる可能性はあります。
ただ、がんもどきが本物のがんになる可能性は、正常細胞が本物のがんになる可能性よりも低いと考えられます。なぜか?
遺伝子の傷は、分裂の激しい細胞ほど速く蓄積していきます。
つまり、分裂の激しい細胞ほどがん化しやすいのです。
ところが、がんもどきは分裂が遅いのです。
通常、がんもどきは発見された時点で、数グラムから数百グラムです。
数年から数十年かけて、最大で数百グラムまで成長するわけです。
それに対して正常細胞の、たとえば腸などは、1年間に40キログラムもの新しい細胞が生まれます。
分裂の激しさは、がんもどきの数百倍から数万倍にも上るのです。
このようなわけで、がんもどきが本物のがんになるよりも、正常細胞が本物のがんになる可能性の方が、ずっと高いのです。
実際に、がんもどきが本物のがんになったケースを、僕はまだ1つも見たことがありません。