70歳からの選択 和田秀樹
2019年に行われた金融庁の金融審議会ワーキング・グループにおいて、「老後の30年間で約2,000万円が不足する」という報告書が出されました。
それ以前から「年金は破綻する」といったことが盛んに言われ、高齢者の不安を煽ってきました。
2人以上の世帯で世帯主が65歳以上の世帯の貯蓄額の中央値は1,555万円となり、全世帯の貯蓄額の中央値1,061万円の約1.5倍の規模にもなっています。
また、金融資産の分布状況では、全金融資産のうち、63.5%を60歳以上の世帯が占めています。
その原因は、将来に対する不安です。
しかし、現在の高齢者は、年金と公的な制度で、ほとんどの生活・介護・医療の費用をまかなえます。
日本は死ぬ間際になるほど、実はお金がかからないという不思議な社会なのです。
結局、1,555万円というお金がそのまま残り、何のために行きたかった旅行、買いたかった車を我慢したのか、ということになるわけです。
高齢者が、好きなことができない原因として、金銭的なことと並んで大きいのが「医者の言うことを聞きすぎる」ことだと思います。
血液検査などの数値をもとに医者は「異常」「正常」を判断し、異常と診断した際には、薬を処方したり生活に制限をかけたりしますが、それが本当に健康に役立っているのかといえば、私は甚だ疑問に思っています。
むしろ、そうした薬や制限が、別の症状を引き起こし、高齢者の生活の質の低下を招くことのほうが多いのではないか、そう考えているのです。
高齢者のガンの場合、化学療法や手術は大幅に生活の質を下げてしまうことが少なくありません。
多少寿命が延びる代わりに、体のだるさ、つらさで起き上がることもできなくなり、「治療をしなければ、もっとやりたいことができたのに・・・」と後悔する高齢者も数多く見てきました。