生きがいの力 柴田高志
入院患者さんは高齢の方が多く、亡くなられる方も月に数人おられます。
私自身、これまでに数百人以上の看取りを経験していますが、いろいろな最期がありますね。
一番印象に残っているのが、下津井時代に、木枯らしの中を漁船で1時間くらいかけて往診に行ったときのことです。
80歳過ぎのおばあちゃんが、部屋の真ん中にポツンと寝ておられました。
すでに血圧が下がって非常に危険な状態だったので、じっとそばに座っていました。
すると家族はもちろん、近所の方も大勢集まってきて「おばあちゃん、がんばって」と言いながら、体をさすったり、手を握ったりして励ますのです。
結局、1時間くらいして亡くなりましたが、その雰囲気はとてもあたたかいものでした。
現在の医療の現場では、そんな場面は絶対にみられないですね。
現在、病院で亡くなる方が80~90%に上り、マカロニ症候群といって、管につながれて最期を迎えることになります。
そして最後になると、家族は部屋から追い出されて、看護師と医者だけで最期を見て「ご臨終です。どうぞお入りください」
そういう形で、本当にお別れをしたい家族と患者さんが離されてしまっているわけです。