親のこころより 62歳男性の投稿
寒い冬のある日、9歳の私と5歳の妹は、留守番を母に頼まれました。
春夏秋冬、山で採れた山菜を背に行商をするのが、集落の習わしでした。
母が家から出ると、私は急に寂しくなりました。
昼近くになった頃、妹は徐々にぐずり始め「お母さんの所に行きたい」と泣き始めたのです。
私は何か変だと思い、おでこに手を当てると、すごい熱。
すぐに薬箱から風邪薬を取り出し、妹の口元に近づけましたが「嫌だ」といって飲みません。
なすすべもなく、しばらくそのままにしていましたが、熱があり、泣く妹を放置もできません。
「お兄ちゃんがお母さんの所へ連れて行ってあげる」と言うと、一瞬小さな泣き声になって、私の足もとに近づいてまいりました。
私は帯を探して妹の脇の下に帯を回し、背を向けると少し喜んで体を預けてきました。
何時間くらい歩いたのか、「お兄ちゃん疲れたからね」と言って、妹をいったん降ろしました。
のどの渇きもあったので、手のひらで雪をすくい妹に差し出すと、自ら食べ始めました。
やがて丘陵地の高台付近に差し掛かると、横殴りの雪が顔に当たり、激痛を感じました。
妹には半纏を深くかぶらせ、ひたすら母の行商をする街へ向かって歩くこと2時間半、ようやく街に着きました。
母を見つけ「ほら、あそこにお母ちゃんがいるよ」と妹に告げると、「お母ちゃ~ん」とまた泣き始めました。
さらに私が「お母ちゃん」と言って小走りに駆け寄ると、母は一瞬、なにごとかと振り返りました。
しかし、すぐに駆け寄ってきて「どうしたの!!よく来たね」と、妹を背に負ったままの私を抱きしめ、私と妹の頭を何度も撫でてくれました。
やがて事の顛末を告げると、急いで街の医師の診察を受けに行きました。
風邪でした。
妹は注射と薬、そして母に出会えたことで幾分元気になった様子でした。
あのような寒波の中、母は藁で編んだ敷物の上で、フキ、ワラビ、ぜんまい、タケノコ等を塩漬けにしたものを売るのです。
手の指も足もアカギレだらけです。
そんな荒れた手で、私たちを育ててくれました。
ありがとう、お母さん・・・・。