いのちを支えるものは愛

愛が支えるいのち 曽野綾子

私たちは、いのちが大切なものだということを知っています。
しかし、果たして私たち日本人が本当にいのちを大事にしているかというと、そうとも言えないところがあります。

今から10年以上前の時点で、戦後の日本の人工中絶が1億を超えるというのです。
つまり私たちは、日本人全体を全滅させられるほどの数を殺してきたことになります。
もちろん、多くの人が中絶をしたときに悲しんでいるのです。
それでも、この数を考えるとき、私たちはいのちというものを愛し、大切にしてきたと言えるのでしょうか。

以前、あるお姑さんから、こんな話を聞きました。
その方は、お嫁さんから「あなたがいるだけで不愉快だ」と言われたのだそうです。
それを聞いたお姑さんはまた賢い人で「自分の立場が分かって、かえって安定しました」と言っていました。
たとえその問題を根本的には解決できなくても、和らげる方法を私たちは知っています。
たとえば、お互いに不快なら、適切な間隔をおいて暮らすのもいいでしょう。
ただし、不思議な縁で結ばれていることだけは認め合い、たまに近づくという試みは続けていく。
これは、ある意味で非常に高級な理性の営みだろうと思います。