あきらめがつかない・・・

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

「まだ生きたい」、そう願う患者さんの中には、病院での抗がん剤治療のほか、民間療法や願掛けに至るまで、「これでやめたら死ぬのではないか」と、どれもやめられなくなる方がいます。

2016年7月、野口さん(81歳 結腸がん 肝転移)が緩和ケア外来に来て言いました。
「半年前に結腸がんの手術をしたのに、肝臓にも転移してしまった。 抗がん剤はたくさん使えないので、3週間に一度、代替療法っていうんですかね、特殊な食事療法を受けに岐阜から関東まで通っているんです」
「遠くまで行くんですね。病院の先生には何と言われましたか?」
「再発しているし、かなり進行している。抗がん剤を使っても効果がなかった。どうしても使いたければ、少しなら使ってもいいと言われたので、ごく少量の抗がん剤を使っています。だから代替療法を受けているんです」
「そうなんですね。どうして小笠原内科に来ようと思ったんですか?」
「病院の先生がから、緩和ケアを受けるといいから一度話を聞いてきたら、と言われたんです」
「抗がん剤が効くのなら使ってもいいと思うけど、少量ならやめた方がいいと思うよ。でも、それは野口さんと病院の先生で決めることだから、よく話し合ってみたらどうですか。僕が患者だったら抗がん剤は使わないよ」
「そうですか。でも、抗がん剤をやめると死ぬかもしれないし・・・」
「野口さん、ひとまず緩和ケア外来に通院してみますか? 早い段階から緩和ケアを開始すれば延命効果もあると思うよ」

私の話にうなずくものの、野口さんは抗がん剤をやめる決心がつきません。
「病院とうちに通院しながら、月に3度も関東に行って疲れませんか?」
「疲れるんだよ。でも、やめると死ぬかもしれないと思ったら、やめられなくてね」
「そうなんですか。緩和ケアだけで長生きできると思いますよ。あとはよく寝て、心と身体を暖めて、笑うこと、それが大事だと思います。疲れてはいけませんよ」