私はがんで死にたい 小野寺時夫
日本人は「名医」という言葉が好きで、噂を安易に信じる傾向にあります。
心臓の手術などはかなり腕の違いがありますが、がんの手術には特別な「名医」はいないのです。
よほど非常識な手術でない限り、術者による治癒や再発の差はほとんどなく、術後の経過はがん細胞の性質やがんの進行度によって決まるのです。
余命〇か月と言われた人を手術して〇年生きた人がいる、と話す「名医」もいますが、前医が誤診しているだけだったり、例外的に進行の遅いがんであったりなど偶然や幸運が多く、名医の腕を鵜吞みにしてはいけません。
手術が最良の治療法である患者さんだけを選んで行い、手術合併症を起こさず、しかも患者さんに対する心情の豊かな医師こそが「名医」なのです。
医師は「何の治療もしなければ余命〇か月です」などとよく言いますが、そう話す医師の多くが治療しないときの経過をよく知らないし、現実に多くの患者さんを診たことがないのです。
手術を受けない患者さんも大勢いますが、医師の予想よりはるかに長生きする人が少なくないのです。