ホスピスケアの現場から 柏木哲夫
72歳のすい臓がんの女性患者さんの例です。
この方は自分の死を覚悟して入院してこられたのですが、彼女にはたった1人の肉親である58歳の妹さんがいました。
この妹さんは、お姉さんが死んでしまうことを受け入れられず、本当に熱心に毎日お見舞いに来ていました。
そんなある日、この患者さんが「先生、妹、何とかなりませんかね・・」と言い出しました。
「毎日見舞いに来てくれるのは嬉しいけれど、そのたびに姉ちゃん、がんばれよと、励まされるのがつらいんです。励ます以外に言葉がないのもよくわかるから、やめてくれとはどうしても言えない。でも、本当につらいので、先生から妹に行ってくれませんか・・」と、こう言われたのです。
そこで、妹さんがいらしたときに別室に呼んで、実はお姉さんにこんなことを言われましたと言うと、それはびっくりしていました。
励ますのが一番いいと思っていたわけです。
そして、どういう態度で接したらいいのか尋ねられたので、事前に聞いていた通り「姉ちゃん、つらいな、しんどいな・・」と言ってほしいそうですよとアドバイスをしました。
そこで妹さんはベッドサイドに行くと、いきなり「姉ちゃん、つらいな、しんどいな・・」と言い出したんです。
最初こそ演技的だったのが、だんだん情がこもるようになり、2人の心がぴったりとしてきました。
最期は、妹さんはお姉さんをいい形で看取ることができたと思います。