1人息を殺して泣いた

私が社会に出て十数年が経ったころ、一流電気企業のシステム開発部長職にあった父が、突然恥を忍んで子供である自分に「お金を貸してもらえないか」と言ってきました。
数年来、家族に内緒でサラ金から借り入れては返済を繰り返していたといいます。
なぜ、父が、と訳を尋ねると・・・私が浪人生であったころ、家を新築し、母の仕事を応援し、無理に無理を重ねて健康を害し、それでも予備校に通う費用を出すために、絶対に手を出すはずのないサラ金からお金を借りたのです。
それからバブルの崩壊、大病を患う・・・。
いつもピンチになると、1人ウイスキーを傾けて黙って煙草を吸っていた父。
今振り返れば、いつ自らの命を絶ってもおかしくはなかったのです。

私は僅かでしたが、精一杯のお金を工面しました。
「返さなくてもいいよ」と添えて。

思えばあの受験時代、私が経済的に行き詰まり、精神的にブチ切れていた夜、何も言わずに父が渡してくれたお札が10枚あったっけ。
父はいつも1人孤独に耐えて、家族を守るためには悪と知りつつ手を染めて、一切を一人で背負い込み黙り続ける、重く悲しき深き愛なりと、知らされたできごとでした。