16年の結婚生活 2

突然入院することになった夫は、それまでの日々が嘘だったように日に日にやせ細っていきました。
夫はもう助からないと言われました。
本人には告知しませんでしたが、夫はもう自分が助からないことに気づいているようでした。
夫が入院して数か月、その日は私の誕生日。
もうベッドの上からほとんど動けなくなっていた夫が、何も言わずに小さな箱を差し出しました。
箱を開けると、そこには指輪が入っていました。
小さなダイヤが1つだけついた、きれいな指輪でした。
いつか約束した結婚指輪。
夫は友達に頼んで、私の誕生日に指輪を用意してくれたのです。
「16年も待たせてごめん」
と夫は薬でうまく回らなくなった口で言いました。
私は心を込めて、ゆっくりと「ありがとう」と伝えました。
うれしかった! でも、すごく悲しくて涙が止まりませんでした。

1か月後、夫は眠るように天国に旅立ちました。
たった16年で終わった結婚生活、貧乏で不幸だと言われたらそうかもしれませんが、振り返ってみると、なぜか浮かんでくるのは「幸せな時間ばかり」なのです。
最初で最後のプレゼントは、今も”大切なものいれ”と決めた引き出しにしまってあります。
16年分の幸せと一緒に。