高齢者が後悔すること

70歳からの選択 和田秀樹

我慢が人生の質を低くし、かえって長寿や健康の妨げになっているのではないでしょうか。
私が感じてきたのは、人生の終幕を迎えた高齢者が後悔するのは、「健康のために、もっと摂生すればよかった」ということではありません。
むしろ、「人生のために、生活の質を下げるようなことをしなければよかった」と思うことの方が圧倒的に多いということです。
不摂生を後悔するのは病気になった時であって、そのようなときには「もっと医者のいうことを聞いておけばよかった」と多くの人が思います。
しかし、人生の最期、とりわけ高齢者の人生の最期では、そのような後悔をすることは稀です。
不摂生を悔やむよりも、やりたいことができなかったことを悔やむ傾向にあります。
そして、高齢者が「やりたいことをできなかった」ことの原因は、巷間伝わる「健康常識」や「生活常識」、あるいは医者の助言だったりするのです。

問題は、なぜ好きなことをしなかったのか、という原因の部分です。
高齢者になると、さまざまな不安が大きくなっていきます。
特に大きいのが健康面と金銭面です。
健康面では、医者からの食生活の改善や禁酒を命じられるといったことも増えてきます。
さらに深刻なケースとしては、ガンなどの病気がみつかり、その治療のために好きなことを断念せざるを得なかったという話もよく聞きます。
また、生活面では「老後資金には2,000万円が必要」などと言われるために、本当は老後に欲しかった自動車をあきらめた、海外へのシニア留学を断念した、といった声も聞かれます。