高血圧の薬にはエビデンスがない

70歳からの選択 和田秀樹

血圧を下げることで、どれくらい脳卒中が減るか、あるいは寿命が延びるかといった研究は、欧米人を対象にした調査によるエビデンスはあるものの、日本人を対象にした大規模な長期調査によるエビデンスはまだないのです。
2013年に、高血圧の治療薬「ディオバシ」の臨床研究に、製薬会社ノバルティスファーマーの社員が統計解析者として関与し、論文のデータを改ざんした疑いが発覚した「ディバオン事件」というものがあります。

ディバオンは、欧米では心筋梗塞や脳卒中の予防に最も効果のある薬として知られています。
そこで、ノバルティスとしては、日本人が服用しても当然、効果はあるはずと見込んで、約35,000人の日本人をサンプルとした大規模調査を行いました。
しかし、なぜか日本人では、ディバオンを使うと脳卒中、心筋梗塞が減るというデータが得られなかったのです。
日本人が欧米人とは食生活が違うからか、体質が違うからなのかは分かりませんが、思いがけない結果が出たノバルティスは困ってしまい、大規模なデータ改ざんに手を染めたというわけです。

ともかくも、多くの日本人が副作用に耐えながら飲んでいる血圧の薬には、これを飲んでいれば病気になりにくい、長生きできるというエビデンスなど存在していないのです。