関係は絶対的ではない

いい言葉がいい人生をつくる 斎藤茂太

誰にでも苦手な人、相性の悪い人はいる。
具体的にどこがどうだということはないのに、「どうもあの人とはウマが合わない」とか「上司とソリが合わなくて」という悩みがあるのではないだろうか。
「ウマ」とは文字通り馬のことである。
馬は乗り手を選ぶ動物だ。
相性が合わないと、乗り手を平気で振り落としてしまう。
反対に相性が合えばきわめて従順になり、乗り手の技量以上の力を発揮してくれる。

「ソリ」とは日本刀の反り、つまりカーブのことだ。
刃と鞘の反りが合わないと、刀は鞘に収まらないし、無理に入れれば抜けなくなる。
ぎくしゃくした人間関係そのものだ。

しかし、考えてみれば、こうした関係は決して絶対的なものではない。
人間が馬の性格をよく観察し、手なずけたり、馬に合わせたりすれば、相当のじゃじゃ馬でも乗りこなせるだろう。
とくに、目をしっかり見て、やさしく首筋をなでられる関係までもっていければ、たいてい楽に乗りこなせるようになるという。
刀と鞘の反りが合わないのなら、鞘を作り直せばいい。

けれども、とかく人間は、相手を嫌いなあまり、「あの人の性格が悪いからだ」と決めつけたり、仕事上の評価まで低くしてしまいがちだ。
こうなるともういけない。
相手もこちらを嫌いになり、人間関係は泥沼化してしまう。