長生きしたいですか?

寿命が尽きる2年前 久坂部羊

多くの人は長生きを求めると思いますが、長く生きるということは、どんどん老いるということで、長生きは求めるけど、老いるのは嫌というのは矛盾した欲求です。
老いが苦しいと感じられるのは、いつまでも若いときのままいられると思っているからで、老いれば体が弱り、できないことが増え、見た目も衰えるのが普通です。
はじめからそういうものだと思っておけば、いたずらに苦しむことはありません。

死を拒み、生を求めるのは動物の本能ですが、人間が死を恐れるのは、死んだらどうなるか分からないとか、自分がなくなってしまうとかの思いがあるからでしょう。
私は長年、高齢者医療の現場にいたので、超高齢者の患者さんをたくさん診察してきました。
そこで目にした様々な困難、苦痛、悲惨さを思うと、あまり長生きはしたくない。
ほどほどで死ぬのが良いと切実に思います。

自宅で寝たきりで、身動きできずに、胃ろうから流動食を注入されて、ただ死ぬ日を待つだけの人や、施設に入れられ、車いすに乗せられて、無言無動のまま、掛けっぱなしのビデオの前に放置される人、大便を失禁して、自分で片付けようとして弁で足を滑らせ、便のついた足で歩きまわって畳を便だらけにした人、巨大な褥瘡が悪化して、壊死した組織が悪臭を放ち、肉が崩れて骨が露出した人。
そういう現実を見れば、誰だって極端な長生きはしたくないと思うに違いありません。
つまり、長生きをしたいと思っているのは、まだ長生きをしていない人だけで、実際に長生きしたら思わぬ困難にたじろぐ人が多い気がします。