長寿社会

大往生したけりゃ医療とかかわるな 中村仁一

長寿社会といわれますが、いいことばかりではありません。
一面、弱っていてもなかなか死ねない、死なせてもらえないという長寿社会でもあります。
長くなった人生を往きと還りに分けて考えてみたいと思います。
なぜ分けるのかといいますと、生き方を変える必要があるからです。
つまり往きは右肩上がりの考え方でいいのですが、還りは右肩下がりの考え方が必要というわけです。
しかし、現実はそうはいきません。
体がついていけないにもかかわらず、気持ちだけはいつまでも若く、無理に気持ちに体を合わせようとするので不都合が生じます。
本当は、体に気持ちを合わせようとすれば、ずっと楽に生きられるはずなのですが。

往きと還りがあるからには、折り返し点があるはずです。
女性の場合は閉経した時と明確です。
男性の場合は、もう1つはっきりしません。
でも男性も、女性と同じころか、遅くとも定年、還暦あたりと考えるのが妥当でしょう。

産卵を終えるとすぐに鮭は息絶えます。
1年草は、花を咲かせて種ができると枯れます。
このように、生き物は繁殖を終えれば死ぬというのが、自然界の掟です。
ところが人間は、繁殖を終えて生き物としての賞味期限が切れてからも、何十年生きるようになりました。

還りの人生においては、いやでも「老」「病」「死」と向き会わなければなりません。
基本的には、「老い」には寄り添ってこだわらず、「病」には連れ添ってとらわれず、「死」には妙にあらがわず、医療は限定利用を心がけることが大切です。