鍋磨きを3年

人生を楽しむための法則 小林正観

帝国ホテルの料理長を16年間勤め、重役になった村上信夫さんという方がいます。
この村上さんは、厨房から初めて重役になった唯一の人です。
10代のときに帝国ホテルの厨房に入ってからは、3年間、仕事は鍋磨きだったといいます。
一切、料理に触れることが許されませんでした。
鍋磨きだけで、まったく料理を教えてもらえず、何人もの少年が入ってきても、1年以内にほとんどの人が辞めていったといいます。
でも村上さんは、「日本一の鍋磨きになろう」と決意して、3年間、鍋をピカピカに磨くことにしました。

自分の所に回ってくる鍋には、料理が残っていても、ソースの味が分からないように、洗剤などが入れられた状態で来るのだそうです。
それでも、村上さんは自分の顔が映るくらいピカピカに磨いたといいます。

そうして3~4カ月経ったところで
「今日の鍋磨きは誰だ?」と先輩が聞くようになったそうです。
「今日の鍋磨きは村上です」という答えが返ってくると、村上さんのときだけ、先輩がソースを残したまま鍋を返すようになったので、村上さんはそれを舐めて隠し味を勉強するようになり、立派な料理人になったという話しです。