野口英世 1

細菌学者の野口英世は、明治九年、福島県に生まれた。
英世は1歳半のころ、囲炉裏に落ちて左手に大やけどを負ってしまった。
母がちょっとしたすきの出来事であった。
貧しい農家なので、病院に行くお金もない。
それから二週間、母は夜も眠らずに付きっ切りで看病した。
しかし、左手は指が癒着して、まるで松の瘤のようになってしまった。
「どんなことがあっても、おまえだけは一生、安楽に養い通すぞ、たとえ私が食べるものを食べずとも・・・」母は、こう決心した。

手が不自由な子には農業は向かない。
何とか学問で身を立てさせてやりたいと考えた。
そのためには学費がいる。どんな苦労しても、作ってやらねばならない。
初夏から秋までの間、母は昼間の労働が終わった後、子供を寝かせてから湖へ出かけ、毎晩漁をした。
小エビや雑魚を取って、翌朝早くに家を出て十キロ先の村に売りに行くのだ。
寝る時間はろくになかった。