還暦 1

今年で還暦を迎えるオヤジの誕生日。
家族でささやかな誕生日会を開き、僕と妹は写真立てを贈った。
写真立ての中には、数日前に我が家の玄関先で撮った家族の集合写真が入っている。
厳格で無口なオヤジのことだから、きっと「ああ」って言って終わりだろう。
と僕も妹も思っていたが、オヤジは意外にも「ありがとう」と、はっきりした声で言った。
そんなのは、初めて言われたような気がした。

思えば僕は小さい頃、オヤジが怖くて仕方なかった。
オヤジは無口なくせに、怒るときだけは大声で怒鳴ったからだ。
オヤジが家にいるだけで息苦しかった。
そのせいで日曜日は、ほとんど外に出て遊んでいたくらい。
でも僕が部活ばかりの高校生だった頃、オヤジとケンカして勢いにまかせて胸倉をつかんだ瞬間、オヤジの体が思っていたよりずっと軽く感じられたことを良く覚えている。
それ以来、怖かったオヤジが小さく見えるようになった。