誰にでもドラマチックな人生がある

ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛

緩和ケア医の大切な仕事は、患者さんたちとの対話である。
私が診察する人生の最終段階を迎えた患者さんの多くは、すでに病気の根治は目指していない。
つまり、治すための医療ではなく、延命のための医療を受けている。
では、どのような対話をするのか。
そこで重要となるのが、患者さんの生き方、考え方を知ることである。

緩和ケア医は、最初に患者さんと接したとき、いろいろな質問をする。
患者さんは「お医者さんがこれまでの治療や、今の身体の状態を聞きたいんだな」と思っていることが多い。
しかし、実際に私が聞きたいのは、むしろその人のパーソナリティーや大切にしていることである。

患者さんが自分語りを始めてくれれば、面談は成功したも同然なのだ。
「人生にとってのハイライトシーンはどこですか」
そう聞かれたとき、人は「よくぞ聞いてくれました」と語り始める。
世の中のほとんどに人は、名も知れぬ「無告の民」だが、実際には何十年もわたるドラマチックな人生があり、それこそ1冊の本になるような出来事が積み重なっているのだ。