誰かの役に立ちたい

20歳で白血病になった女学生がいます。
共働きだった両親に対して「本当はもっと愛して欲しかったのに、そうしてくれなかった」という感覚を持っていたそうです。
最初は、白血病になった不安や悲しみよりも、「もっと娘を大事にしておけばよかったと思うんじゃないの」と、両親への怒りを口にしていました。

ですが、化学療法が始まると、高熱が出て、口の中が口内炎で食べることもままならなくなりました。
大切にしてきた髪も抜け、苦しさは深くなっていきました。

そんな時、同じ病棟の高齢の男性と話すようになって、彼女は徐々に変わり始めます。
その方は、腎臓から肺にガンが転移し、彼女よりずっと大変な状況にあるように見えました。
それにも拘らず、いつも明るい笑顔で「どう、大変だね。よく頑張っているね」と声をかけてくれていました。
ある時、彼女は高齢の男性に「どうしてそんなに頑張れるの?」と尋ねると、男性は「だって、家族のために頑張りたいじゃないか。それにまだ、誰かの役に立ちたいしね」と、やさしい目をして話してくれたそうです。
その時彼女は、ハッとしました。
「誰かのために頑張りたい」その一言が、彼女にとっては衝撃的でした。

ある夜、自分の背中をさすってくれている看護師さんの手の温もりに、心からありがたいという気持ちが湧きあがってきて、「自分がもし元気になったら、困っている人の役に立つような生き方をしたい」と思うようになったのだそうです。

彼女は治療を終えて、大学に復帰しました。
「普通の生活ができるって、当たり前の事じゃないんですね。そう思うと、感謝の気持ちが溢れてきます」と話してくれました。