記憶力障害とは

70歳からの選択 和田秀樹

50~60代で「記憶力が落ちた、もしかして認知症?」と慌てる人もいますが、たいがいは前頭葉の老化や男性ホルモンの低下が原因だと思われます。
物忘れなどの記憶障害には、想起障害と記銘力障害があります。
想起障害は、久しぶりに会った人の名前や「あれだよ、あれ・・」と物事の名称が出てこないといった、すでに脳に書き込まれているものが出てこない、という記憶障害です。
一般的に、私たちが「物忘れがひどい」として記憶障害と思っているものの多くは、想起障害なのです。
想起障害には、前頭葉の老化現象が関係しています。
長期記憶には大脳皮質の側頭葉に書き込まれていますが、これを引き出す役割を担っているのが前頭葉です。
しかし、40歳くらいから前頭葉の委縮が始まることで、働きが悪くなり、目的の記憶が見つけにくくなるのです。

一方、記憶力障害というのは、新しく覚えたことが脳に書き込まれないというもので、例えば昨日の朝食に何を食べたか思い出せないなど、最近起こったことを覚えられないという記憶障害です。
加えて、男性の場合、40歳を過ぎると男性ホルモンが減少します。
男性ホルモンは意欲や興味を高める働きがあり、さらには記憶をつかさどる神経伝達物質のアセチルコリンの働きも男性ホルモンが助けています。
高齢化により男性ホルモンが減少することが、記銘力障害の大きな原因になっているのです。

ちなみに、認知症の場合、初期には新しい記憶をインプットできない「入力障害」という状態であり、10分前に食べたものが覚えられなくなったりします。
末期になると人の顔も認知できなくなったりします。
以前出会った人の名前が思い出せないとき、想起障害の人は、誰かに教えてもらったり名簿を調べたりすれば「ああ、○○さんだ」と思い出すことができるのに対して、認知症が重くなると、その名前自体に見覚えがないのです。