親の体を洗ってあげたことがあるかね

親のこころより

「君は今まで、親の体を洗ったことがあるかね」
ある青年が、一流企業の入社式で、社長からこんな質問を受けました。
「いいえ、一度もありません」
すると、社長は意外なことを言ったのです。
「君、すまないが明日この時間にもう一度ここへ来てくれないか。それまでに、親の体を洗ってきてほしいのだが、できるか」
「はい、何でもないことです」と答えて、青年は家に帰りました。

父親は、彼が幼い時に亡くなりました。
母親は、一人で必死に働いて子供を大学まで出させたのです。
彼は、お母さんが呉服の行商から帰ったら足を洗ってあげようと思い、たらいに水を汲んで待っていました。

帰宅した母親は、「足くらい自分で洗うよ」と言います。
事情を話すと「そんなら洗ってもらおうか」と、縁側に腰を下ろしました。
「さあ、ここへ足を入れて」と青年はたらいを持ってきます。
母親は言われるとおりにしていました。
彼は、左手で母親の足を握りました。
しかし、洗うはずの右手が動きません。
そのまま両手で母親の足にすがりつき、声をあげて泣いてしまったのです。
「お母さんの足が、こんなに硬くなっている・・・。棒のようになっている・・・。学生時代に毎月送ってもらっていたお金を”当たり前”のように使っていたが、これほど苦労をかけていたとは・・・」と知らされ、泣かずにはおられなかったのです。

翌日青年は、社長に
「私は、この会社を受験したおかげで、どの学校でも教えてくれなかった親の『恩』ということを、初めての知らせてもらいました。ありがとうございました」と、うれしそうに言ったそうです。