見知らぬおじさん 1

私には妻がいたが、一人娘が1歳の時に離婚することになった。
酒癖の悪かった私は暴力を振るうこともあり、幼い娘に危害が及ぶことを恐れた妻が子供を守るために選んだ道だった。

私は、自分がしてしまったことを心の底から悔やんでいる。
そして今では、付き合いといえども酒は一滴も飲まないことにしている。
もちろん、だからといって「よりを戻してくれ」なんて言うつもりはないし、言える立場でないことはわかっている。
ただ、元妻と娘には本当に幸せになってほしいと思う。
その気持ちに嘘はなかった。

離婚するとき、私は妻と2つの約束をした。
1つは年に一度、娘の誕生日だけは会いに来てもいいということ。
もう1つは、そのときに自分が父親であるという事実を娘に明かさないでほしいということ。
自分が父親であることを言えない。
それは私にとってつらい決まり事であったが、娘にとってはそれが最良の選択であることも分かっている。
年に一度、娘の誕生日を一緒に祝えるだけでも感謝しなければいけない。

それ以来、娘の誕生日にはプレゼントを買い、普段は着ないスーツを着て、母子に会いに行った。
元妻は私のことを「遠い親戚のおじさん」と紹介した。
娘も冗談なのかなんなのか、私のことを「見知らぬおじさん」と呼んだ。
娘は人見知りだったが、少しずつ打ち解けていって、元妻と3人で近所の公園へ遊びに行くこともできた。
周りから見れば仲睦まじい家庭に見えたかもしれない。
それは私にとって、なににも変えがたいほど幸せな時間だった。
これが平凡な日常ならば、どれほど素晴らしいことだろうか。
年に一度のこの日のことを思うだけで、酒を遠ざけることができた。