いのちの言葉 精神科医 なだいなだ

ボーナスと言っても、単なる紙切れに書いた数字なんですが、それでも「5万円」「30万円」という数字を比べると、くやしいんですよ。
そこで、カスガ天皇にその理由を聞きに行きました。
カスガ天皇は、「これは私的なボーナスで、病院から出すボーナスではございません。これは、私の気持ちなんです。それで、先生は私に何をしてくださいましたか?」と言いました。
そこで私が「あなたを診察して、処方箋を書いて薬を出す。あなたは、その薬を飲んで治療を受けているわけで、それは私がいないとできない。この薬なんか、高い薬だけど、私が処方しなければ飲めないんですよ」というと、「そんな薬、飲みたくありません」と言います。
「飲まないでいいのなら、だるくなったり、眠くなったりするような薬、飲みたくありません。あの薬は本当に効くのでしょうか」というのです。
そこで私は、「効きますよ。世界でも認められた有名な薬なんですから」というと、カスガ天皇は、「それは嘘です。だって本当に効いていたら、私は当の昔に退院しているでしょう」と言いました。

私はその時初めて知りました。
薬はよく効くのですが、それは彼の病気を治す方向に効いているのではなく、病院の中で管理しやすい人間にするために効いているということを。