自らの死を実感した上で患者さんと向き合う

いつでも死ねる 帯津良一

私の病院には、末期ガンの患者さんがたくさん入院しておられます。
彼らはいつも死を意識し、不安や恐怖を抱いています。
「希望を持ちなさい」とか、「まだまだ方法はありますよ」と言葉だけで励ましたり、慰めたりしても、死への不安や恐怖は、そう簡単にはなくなるものではありません。

予備校で講義をしたとき、医学部志望の若者がこんな質問をしました。
「僕は死が怖い。死を怖がる人間が医者になってはいけないのでしょうか?」
若者らしい、とても純粋な感性です。
私は、死が怖いと感じるのは、医者の適性の1つだと思っています。
特に若いうちは、死に対して暴虐無人で、永遠に生は続くものだという傲慢な気持ちがあるものです。
自分の死が怖いというのは、他人の死を思いやれることです。

不安や恐怖を抱える患者さんに対して、私たち医療者には何ができるでしょうか。
医療者は、自分自身もいずれ死ぬことを意識しないといけません。
そしてこの若者のように、恐れであれ不安であれ、死をしっかりと見つめることです。
自らの死を実感した上で、患者さんと接することが、医療者には欠かせない態度なのです。