商談には特に秘訣というものはありません。
ただ、相手の話しに真摯に耳を傾けるだけです。
それは、どんなお世辞にもこれほどの効果はないからです。
こんな話があります。
あるデパートで、年間数百万円の買い物をしてくれるご婦人が、特売でオーバーを１着購入しました。
家に持ち帰って、裏地が破れているのに気がつきました。
翌日デパートに行って「取り替えてほしい」と頼みましたが、女店員はご婦人の話しに耳を貸そうとしません。それどころか、
「奥さま、これは特売品でございます。あの張り紙をよくお読みください」
女店員は、壁に張り出された注意書きを指さして、声高に言いました。
「”返品はお断りいたします”と、書いてございますでしょう。お買い求めになりました以上、そのままお納めくださいませ。破れた個所は、申し訳ありませんがご自分でお直しいただくようになります」
「でもこれは、最初から破れていた欠陥商品よ！」
「そう言われましても・・お取替えはできかねます・・」
ご婦人は、二度とこんな店にきてやるものか！と、心の中で罵りながら店を出ようとしたとき、顔なじみのこの店の支配人が、にこやかに挨拶して近寄ってきた。
ご婦人は、いままであった出来事を、口角泡を飛ばしながら小一時間しゃべり続けた。
支配人は、ご婦人の話しを最後まで注意深く聞いたあと、オーバーの破れた個所を調べてこう言った。
「特売品の返品はお断りしていますが、傷物は例外でございます。本当に嫌な思いをさせて申し訳ありませんでした。もちろん、この裏地は修理をさせていただくか、新しいものに付け替えるかいたします。またご希望でしたら、お代金をお返ししてもかまいません・・・。本当に申し訳ありませんでした」
ちょっとした対応の差が、年間数百万の買い物をしてくれるお客様を失うことになるところでした。