老人の知恵

日本人の死に時より 医師の書

年功序列が批判されるようになり、終身雇用制度が崩れて、年長者が敬われなくなりました。
それに拍車をかけたのが、IT機器の登場です。
これらは若者の方が得意で、知識も技術も豊富です。
これまでの敬老精神の根本には、年長者の方が実際に優れているという前提がありました。
そこには、若者が解けない問題を解決する、そういう年長者の知識と経験が尊敬の裏打ちになっていました。

ところが、ITに関しては年長者が若者に知恵を乞い、問題を解決してもらわなければなりません。
実力で若者に劣る場面が増えてきたので、敬老精神が急速に衰退していったのです。

でも老人は、無用なことで騒がず、心を乱すことも少ない。
無理をせず、憂いていても仕方のないことには平然としていられる。
それが「老人の知恵」というものです。
喉から手が出るくらい欲しいものでも「手に入るとそれほど嬉しくない」とか、どんなに急いでも長い人生から見れば「大した差ではない」とか、財産が増えれば「煩いも比例して増える」とか、強い人や偉い人が必ずしも立派とは限らず、「みずぼらしいものにも見るべき点はある」などということを経験を通じて知っているからです。