結核の16歳の少女 2

いのちの言葉 医師 日野原重明

「先生、私はもう今日死ぬような気がします。お母さんに直接感謝の言葉をいうこともできないんです」という彼女に、私は、「そんなに簡単に死ぬことはないよ。そのうちお母さんも呼んであげるから、がんばりなさい」と彼女を激励するつもりで言ったのですが、彼女は非常に悲しい顔をしていました。
そして私は、あくる日にでもお母さんが来ることができればと思い、強心剤を注射しました。
それでも彼女の顔色は次第に青ざめ、血圧が下がっていき、そして彼女の心臓は止まってしまいました。

今にして思えば、彼女がいよいよ死ぬのではないかと感じたときに、あなたがどんなに感謝していたか、私が代わりにお母さんに話してあげますから、安心して成仏しなさいよ」と言ってあげればよかったと思います。
彼女に注射をするのではなく、手を握って、顔の汗を拭いてあげて、静かに送ることができれば、彼女は本当に満足したのではないかと思うのです。

私たちが医学を研究したり、勉強するときは、いい先生についたり、教科書で学びます。
でも、患者さんに触れる、その手当の仕方や、患者さんに語りかける言葉については、それから学ぶことはできません。
それは、実際に患者さんから教わるのだと、しみじみ感じました。