究極の聞き上手

N.Yの電話局管内に、手に負えない交換手泣かせの加入者がいた。
聞くに堪えない馬事雑言を交換手に浴びせる。
「請求書が間違っている」といっては、電話料金を支払わなかったり、公益事業委員会に苦情を持ち込んだり、電話局を相手に訴訟を起こしたりしていた。

電話局ではついに、局内きっての紛争解決の名人をこの厄介な人物に会いに行かせた。
紛争名人は次のように言っている。
「初めは、彼が怒鳴り散らすのを三時間近くじっと聞いていました。その次も同じです。彼の言い分に耳を傾けました。結局、四回彼に会いに行きましたが、四回目の会談が終わるころには、彼は”電話加入者保護協会”という会を立ち上げ、発起人になっていました」
「私は相手の言い分をいつも、相手の身になって聞いていました。電話局員にこういう態度で接しられたのは、彼としては初めてで、最後は私のことを親友のように扱い始めました。私は彼に会う目的を一度も言ったことはありませんでした。でも、四回目には私の目的は完全に達せられました。彼は滞っていた電話料を全額払ってくれましたし、委員会への提訴も取り下げてくれました」

この厄介だった男は、電話局と対峙することで、「公民権を防衛する戦士」を自認していたのかもしれません。
でも本当は、「自己の重要感」を欲っしていたのです。
自己の重要感を得るために、彼は苦情を申し立てていたのです。
でも紛争解決の名人によって、自己の重要感が満たされると、彼の妄想が作り上げた不平は、たちまちにして消えうせたのです。