穏やかな最期のために 1

日本人の死に時より 医師の書

66歳男性は、前立せんがんの末期で、肋骨と骨盤に転移があってベッドからおりなれない状態でした。
病院で「もう治療方法がない」と言われたときは、頭の中が真っ白になったそうですが、何とか気持ちを切り替え、家で最期を迎えようと退院してきました。

在宅診療の初診のとき、男性はしみじみと言いました。
「病院では絶望ばかりでしたが、今はこうして家にいられることが幸せだと思えるようになりました。庭のスイセンを見ても、なんてきれいなんだろうと思うんです」
治ることに執着せず、穏やかな最期に向けて精一杯生きようとしていました。