私のために父は土下座して詫びた

あれは5歳の時でした。
貧しい家に育った私は、すべて姉のお古で、欲しいものは何一つ買ってもらえませんでした。
ある日、玩具店の店先で、友達が着せ替え人形を母親に買ってもらっているのをうらやましく見ていました。
その時丁度足元に、赤と黄色の美しい輪ゴムが2つ落ちていました。
きれいな輪ゴムだと、何気なく拾って帰りました。

ところが、それを見つけた父に「どこで盗んできたのか、他人の物に手をかけるとは何事か」と、半殺しにされるかと思うほど尻をぶたれました。
泣きじゃくる私の手を取り、輪ゴムを拾った店に行き「娘がお宅の店の物に手をかけました」と、お金を払い、父は土下座をしてお詫びをしました。
「他人の物に手をかけるな。糸くず1本、紙一枚でも人の物は絶対取ってはならない。黙って使うのも、拾ってくるのも泥棒だ」
骨身にこたえるまで命がけで私を躾け、盗みの悪を徹底的に叩き込んでくれた父でした。