知己を得る達人

友や親しい人を作る達人がいる。
その達人には、誰でも毎日路傍で会っている。
こちらが近づくと、尾を振り始める。
立ち止まって体を撫でてあげると、夢中になって好意を示してくれる。
たまには、顔中を舐めてくれるときもある。
見知らぬおじさんやおばさんならお断りしたいところだが、こと、この達人に舐められると笑ってしまうから不思議だ。
それも、なんか魂胆があって好意を示してくれているのではない。
何かを売りつけようとか、ゴマをすっているのではない。

なんの働きもしないで生きていける動物は犬だけだ。
ニワトリは卵を産み、牛は乳を出し、カナリヤや鶯は歌を歌わなければならないが、犬はただ愛情を人に捧げるだけで生きていける。
それだけではない。
散歩にも連れて行ってもらえるし、飼い主からも同様の愛情を注いでもらえる。

私たちも犬から学ばなくてはいけない。
それは相手の関心を引こうとするのではなく、相手に純粋な関心をよせてみることだろう。
その方が、はるかに知己チキ(自分のことをよく分かってくれる人)を得られるということを犬たちは知っているのである。