目の前のことをこつこつと

帝国ホテルの料理長を26年勤めた村上信夫さんは、厨房から初めて重役になった人です。
十代の時に帝国ホテルの厨房に入ってから三年間、仕事は鍋磨きのみだったそうです。
三年間、鍋磨きだけで一切料理を教えてもらえず、同じように入社した少年たちは1年も経たずに、ほとんどの人は辞めていきました。

でも村上さんは「日本一の鍋磨きになろう」と決意して、鍋をピカピカに磨くことに専念します。
自分の所に回ってくる鍋には、料理が残っていてもソースの味が分からないように、洗剤が入れられた状態で来るのだそうです。
鍋は銅製で、磨けば磨くほどきれいになります。
村上さんは、自分の顔が映るくらいピカピカに磨いたといいます。

あるとき「今日の鍋磨きは誰だ?」と先輩が聞くようになりました。
「今日はムラ(村上さん)です」と誰かが答えると、その時だけは洗剤が入っていない状態で、鍋が回ってくるようになったといいます。
村上さんの時だけ、先輩がソースを残したまま鍋を返すようにしてくれたので、村上さんはそれを舐めて隠し味を勉強することができたのだそうです。

どんな人でも、最初は下積みを経験します。
この下積み時代に与えられた仕事を、とことん徹底的にすることで先輩から見込まれるのです。
今置かれている状況に、文句を言わずに黙々とやっている人に、天は微笑むのでしょう。